和菓子の木型は、老舗菓舗などで代々大切に受け継がれ使用されている伝統工芸品で多いところでは100個以上保有していますが、木型自体の作り手である職人が少なくなってきており、意外と身近にある衰退産業の一つです。
菓子木型は、もともと複雑な3D形状をいろいろな彫刻刀を取り替えながら、時間をかけて一点ずつ精緻に彫刻されていたもので工芸価値の非常に高いものです。今回は、この菓子木型を小さなものを精密に彫刻できるME530Rで彫刻いたします。
CAD/CAMソフト「ArtEsper(アートエスパー)」は、短時間で正確なモデリングを行い、複数の刃物を無駄なく組み合わせたツールパスを自動生成します。あとはそのデータをNCルーター彫刻機に送信すれば、いくつでも切削することができるわけですから、効率的な生産性をもたらす画期的なシステムと言えるでしょう。
和菓子の伝統は、絵図帳などにより現在に伝えられています。二次元画像から3D形状を起こせるArtEsperのモデリング機能を駆使すればその意匠の再現も出来るし、伝統を踏まえたうえで新しく意匠も可能です。
求める仕上げレベルにもよりますが、伝統工芸に基づいた職人級の木型でも、それを凌ぐほどの精度でCAD/CAM彫刻することが可能となりますので手順を追ってご説明します。
CAD/CAMソフト「ArtEsper」のモデリング
これは二曲線掃引と呼ばれるArtEsper固有のモデリング機能です。
図では、蓮の花を彫刻したいと思います。まず、花びらのパーツを作成します。そして、各パーツをレイヤー分けして、その高さを調整しながら組立てられる便利な構造になっています。
表面に細かい筋もあって複雑に見える蓮の花ですが、花弁を高さごとにパーツ分けして作ってゆけば、試行錯誤しながらでも二時間ほどで完成します。
ここまでは、作りやすい様に凸モデルで製作して来ましたが、木型は凹型なので完成したモデルをワンクリックで3D反転します。3D反転させたものが次の図になります。
NC彫刻機の刃はエンドミルまたはルータービットと呼ばれ、先端の形状によりフラットエンドミル、ボールエンドミル、ラジアスエンドミル、テーパーボールミル等の種類があります。刃のサイズは直径6mmから0.3mmまでのものを木型では使用します。細かな形状を掘る場合には、先端の細いテーパーボールミルを使用します。
菓子木型の材料には「桜」がよくつかわれています。代用に「カバ」や「ミズメ」を使うこともあります。外材ではブラックチェリーが適しているようです。
これらは木目が緻密で、木材によく見られる加工後の反りや歪みが起きにくい長所があります。
木型の種類は、打ち出し型、板型、2枚型、割型、両面型があるということですが、ArtEsperなら図面に基づいて、いずれも精密にしっかり咬み合う木型を作るツールパスが生成できます。
CAD/CAMによるパス生成の画像
次の図は、CAD/CAMソフト上で、木を削っていくシミュレーションをしている様子です。
4mmフラットエンドミルで等高線の粗取りを行います。
刃物を持ち換えて片刃角5度で先端0.25Rのテーパーボールミルで仕上げします。
この二つの工程は一度に生成されますから、操作はいたって簡単です。
今回のモデルは表面に細かい筋が有るためその筋より細い刃を使う必要がありますが通常の木型は先端径1Rくらいでも十分でしょう。
加工前にパソコン画面でシミュレーションができるため、彫り損じも少なく事前に修正することも可能です。加工時間も事前に計算値が出るので見積もりも容易になります。
また他のCADや3Dプリンターで利用できるデータ(反転する前のお菓子の3Dモデル)のSTL形式で出力することも可能です。
ここまでがCADCAMで行う作業です。
NCルーターME-530Rで彫刻している様子
デジタル化した3Dデザインから、NC機による切削ではきっちりとした平面や曲線ができ、CG(コンピュータ・グラフィック)では有機的なデザインが可能です。
逆に手仕事の場合は、作り込み意識によっては細かな表現ができるうえ、機械加工にできない勢い等の表現もあります。
手仕事の彫刻は、複数の彫刻刃で木材を少しずつ彫っていきますからとても時間がかかります。
NC彫刻機の場合は、エンドミルが高速回転しながらCAMで作成した軌道(ツールパス)で効率的に削ってゆきます。
彫刻刀の手仕事の場合は、木型に押し込んで出来た菓子が引っ掛かって抜けにくい時もあり、何度か修正を加える必要も有りますが、NCルーター彫刻機の場合は刃物のテーパー角によりおのずと全面に抜け勾配ができますから、その心配はありません、
NCルーター彫刻機による和菓子木型製作のメリット
- 二枚型を合わせる場合も上型と下型はNCで位置決めしたダボ穴に嵌めるだけでぴったり合います。
- 直角に近い彫りや完全球形彫りなども可能で、手仕事で一番苦手とされる正確な繰り返しや幾何学模様、滑らかな平面などの彫刻が容易にできます。
- 拡大縮小が自在。作成した木型を少し大きくしたい、ミラー反転やシアー等も簡単に行えます。
- データを作成すると和菓子木型はもちろん、アクリル彫刻・看板、食品サンプル他の販促物にも活用できます。
- アンティークの木型などは3Dスキャナーで撮像してデータ化します。代々伝わる木型は貴重品ですが、ひびや割れや欠損で使用できない物も多々あります。それを忠実に複製することは手仕事の彫刻では時間とコストがかかりすぎて難しいものですが、3Dスキャナーがその困難を解消してくれます。(3Dスキャナーに関しては別のコラム「事業再構築補助金の適合認定可!EINSCAN SP非接触3Dスキャナー」に詳しく用例を挙げてあります。)
今回はCAD/CAMソフト「ArtEsper」とNCルーター彫刻機「ME-530R」を用いた、和菓子木型の作り方をご説明いたしました。
当社ではこのような事例に基づくCAD/CAMソフトやNCルーター彫刻機を組み合わせたシステムのご導入提案をしています。当社のショールームでは無料で彫刻加工のデモもいたしますので、いつでもお気軽にご連絡を入れてください。