ルーター彫刻機の特徴でレーザー彫刻機と大きく違う点は、正確な深さの段差を彫り込めるということと、素材を変質させないで切り抜き・彫刻が出来ることです。
今回はその特徴がよくわかる製作事例を、実際の加工手順で説明しながらご覧に入れたいと思います。
ルーター彫刻機でハサミ柄を製作した理由
次の写真をご覧ください。永年使い慣れた切れ味が良いハサミでしたが、ゴム製柄が朽ちて使えなくなっていました。
「壊れたハサミなんて買い替えた方が早いじゃないか」というもっともな考え方もあります。それが当たり前とも思えます。
しかし、モノづくりを生業とする当社にとって、長年使いなれた道具はおいそれとは捨てることが出来ません。ケチなのではありません!
板前さんが包丁の柄が腐ったぐらいで刀身を捨てたりするでしょうか。
道具は自分で手入れ出来てこそ愛着が湧くものです。
このゴム製柄の代わりを木材かプラスチックで作れば、ハサミの機能は回復するはずです。
ゴムの柄の部分をナイフでカットすると写真のような刀身が現れました。
CAD/CAMでネスティング
ノギスを使いながらゴム柄の外形と刀身の落としの形状を作図します。
ここで考えたのは、「せっかくつくるんだから手触りのいい紫檀材を使おう」ということでした。
上図のように、材料は貴重で高価なものなので、ぎりぎりまで使い切れるようにネスティングして、左右両面の4ピースをレイアウトします。材料を最大限活かすことは、日本伝統のココロです。
加工順序はまずリングの穴をあけ、つぎに刀身を入れるほぞを切り、最後に外周を切り抜きますが、この順序を間違えると材料がずれて上手くいかないことがありますから、注意が必要です。
CAD/CAMで行う作業はここまでです。ちなみに使用しているソフトは当社開発の極楽彫Ⅱです。
卓上ルーター加工機での切り抜き
写真は卓上ルーター加工機ME-330PRO 50kにセンターバイスを搭載した当社のデモ機ですが、紫檀の板を切り抜いてもばらばらにならないように捨て板を下に挟んで加工用の両面テープで固定してあります。このME-300シリーズは金属も彫刻できるルーターです。金属彫刻機の一覧は、こちらをご覧ください。
紫檀はインドなどでとれる希少木材で英語ではRoseWood(ローズウッド)と呼ばれますがバラの木ではありません。
削るときにバラのような芳香がするのが名前の由来で、バラ科ではなくマメ科の木です。この加工時にも、やはりバラのように華やいだ香りを立ち昇らせています。
ほぞ切り、穴あけ、切り抜きと複数の工程がある場合は本来なら工具を取り替えなければ加工時間が長くなりますが、5万回転という高回転のスピンドルは切削効率が良いので、先端直径1mmの半割彫刻刃一本ですべての加工をし終えることが可能です。
柄の組立と仕上げ
切り抜いたパーツは接着剤で刀身に取り付けて両側からクリップで固定します。
片方ずつやった方が安全なので、ここまでやったらあとはゆっくり時間をかけて作り込みます
接着剤が固まったらヤスリで面取りをして完成です。
我ながら思い通りのものが出来上がりました。これで今世紀中は使える道具になりました。
さすが日本製のハサミです。手間をかけて柄をつくりなおすだけの値打ちがありました。
しかし、柄の復活のために半日以上使ってしまった時間はどう取り返せばいいのでしょう・・・